渾身の提案書を1案に磨き上げ、自信を持って提出した。返ってきたのは「内容は良いんですが、ちょっと予算が…」という一言。値引きに応じるか、持ち帰られたまま自然消滅を待つか。この負け筋に心当たりがあるなら、原因は提案の中身ではない。1案しか出していないことだ。1案の提案は、顧客に「やるか・やらないか」の二択を突きつけている。そして迷った顧客は、たいていやらないを選ぶ。
結論から言う。提案は松竹梅の3案で出す。3案並べば、顧客の頭の中の問いは「やるかどうか」から「どれにするか」に変わる。戦う土俵そのものが変わるのだ。受注率と単価の両方に効く型でありながら、プラン設計はAIに条件を渡せば数分でたたき台が出来上がる。
この記事では、3プランだと決まりやすい理由、松竹梅それぞれの設計の型、受注を左右する見せ方、コピペで使えるプロンプト2本、そしてやってはいけない設計までを一気に示す。読み終えるころには、次の提案を3案で組む段取りが整っているはずだ。
なぜ3プランだと決まりやすいのか?
理由は精神論ではない。人の意思決定の癖に、3案という形が沿っているからだ。根拠は3つある。
第一に、人は選択肢が3つ並ぶと両端を避け、真ん中を選びやすい。行動経済学で極端の回避として知られる傾向だ。最上位は「そこまでは要らない」と感じられ、最下位は「安すぎて不安」と映る。結果として真ん中が「ちょうどいい」に見える。うなぎ屋では竹が一番出ると言われるのと同じ構造であり、だからこそ、こちらが売りたい本命を真ん中に置くという設計が成り立つ。
第二に、比較対象がないと人は判断を保留する。B2Bの商材は、顧客にとって相場が見えないものが多い。1案だけ出された顧客は、その価格が高いのか安いのか測る物差しを持たないため、「他社にも聞いてみます」と先送りする。「検討します」という返事の多くは断り文句ではなく、比較する材料がなくて決めようがないという合図なのだ。3案あれば、比較は提案の内側で完結する。つまり判断の物差しをこちらから先に差し出す発想であり、これは基準となる数字を先に見せて相場観を作るアンカリングの営業応用そのものだ。
第三に、自分で選んだという感覚が納得を生む。提示された1案を受け入れるのと、3案から自分で選ぶのとでは、同じ決定でも当事者意識がまるで違う。自分で選んだプランは社内稟議でも「当社の状況に合わせて選定した」と説明しやすく、導入後の協力も引き出しやすい。
実務上の利点も添えておく。予算が厳しい顧客は梅で拾えるため取りこぼしが減り、意欲の高い顧客は松で拾えるため単価が伸びる。1案勝負では両端の顧客を丸ごと捨てていたことになる。3プラン提案とは価格の小手先ではなく、顧客が決めやすい環境をこちらで設計する行為である。
3プランはどう設計するのか?
3案を別々に考えてはいけない。核は竹だ。顧客の課題を過不足なく解決し、こちらとしても最も通したい本命プランをまず竹として固める。そこから梅は引き算で、松は足し算で作る。各プランの役割は次の通りだ。
| プラン | 役割 | 入れるもの | 価格の目安の考え方 |
|---|---|---|---|
| 梅 | 入口。「まず始める」ための最小構成 | 課題の核心に効く機能・サービスだけに絞り込む | 竹から大胆に削り、竹の7割前後に収めるのが一つの考え方 |
| 竹 | 本命。こちらの推奨案 | 成果と費用のバランスが最も良い、課題を過不足なく解決する構成 | 基準。通したい価格をここに置く |
| 松 | 理想形。上限のアンカー | 竹に加え、将来の展開まで見据えた全部入りの構成 | 竹の1.5倍前後を目安に、はっきり高くするのが一つの考え方 |
作る順序も重要だ。梅から考え始めると、安い構成に思考が引きずられ、竹まで小さくまとまってしまう。先に竹で「この課題を解くには本来これが要る」という水準を固め、梅は「そこから何を我慢してもらうか」、松は「さらにどこまで行けるか」で切り出す。この順番なら、3案すべてに一貫した設計思想が通る。
7割や1.5倍という数字はあくまで目安であり、商材や市場によって最適解は変わる。値ごろ感の演出だけで差を作るのではなく、原価と提供体制が耐えられる範囲で設計するのは言うまでもない。外してはいけない原則はむしろ、隣り合うプランの差がひと目で分かる程度に離すことだ。価格も中身も差が小さいと3案が団子になり、並べた意味が消える。松が明確に高いからこそ竹が現実的に見え、梅が明確に軽いからこそ竹の充実が伝わる。
もう一つ、名前は松竹梅のまま顧客に見せないこと。設計段階の社内用語としては便利だが、提案書ではライト/スタンダード/プレミアム、あるいはスモールスタート/標準導入/全社展開のように顧客の語彙で呼び直す。プラン名自体が「自社のどの状態に対応するのか」を語っていれば、顧客は自分の会社を重ねやすくなる。
見せ方で何が変わるのか?
同じ3案でも、見せ方の巧拙で結果は変わる。押さえるべきは4点だ。
第一に、推奨には推奨と明記すること。3案を並べて「お好きなものをお選びください」と丸投げするのは、選択肢を増やしただけで提案ではない。「御社の課題であれば標準プランを推奨します。理由は〜」と言い切る。推奨の一言があるだけで、顧客の検討は「3つを一から吟味する」から「推奨案を軸に上下を確かめる」に変わり、意思決定は一気に軽くなる。3案は顧客を迷わせるためではなく、納得して選んでもらうために並べる。
第二に、差分は成果で語る。機能の一覧表で差を見せても、顧客には違いの意味が伝わらない。「上位プランには分析機能が付きます」ではなく「上位プランなら、担当者ごとの受注率まで見えるようになります」。各プランで顧客が手にする状態の差を語れば、価格差は自然と正当化される。
第三に、提示順は資料も口頭も松→竹→梅の順にする。高い基準を先に見せておくと、続く竹の価格が現実的に映る。安い方から積み上げると、竹も松も「追加でお金がかかる話」に聞こえてしまい、心理的な逆風の中で説明することになる。値付けを変えずに説明の順番を変えるだけの、コストゼロの改善である。
第四に、差を曖昧にしない。「どのプランでも大体のことはできます」と言った瞬間、上位を選ぶ理由が消える。梅にあえて入れないもの、松にしかないものを意図的に残す。全プランを全部盛りに近づけたくなる誘惑こそ、設計を殺す罠だ。
そして竹に決まったら、決定の熱が冷めないうちに見積書を出す。プラン確定から書面提示までの速さも受注率の一部だ。見積作成に毎回時間を取られているなら、見積書作成をAIで自動化する仕組みを先に整えておくとよい。
AIで3プランを設計するプロンプトはどう書くのか?
ここからは実践だ。1本目は、商材・顧客の課題・予算感を差し込むと3プラン表のたたき台が出てくるプロンプトである。差し込む条件は粗くて構わない。まず出させて、違和感のある箇所を対話で直す方が速い。
あなたはB2B商材の価格設計とプラン設計に長けた営業コンサルタントだ。
以下の条件で、松竹梅にあたる3段階のプラン構成を設計してほしい。
# 前提条件
- 自社の商材・サービス: 〔例: 営業部門向けのオンライン研修プログラム〕
- 顧客が抱える課題: 〔例: 新人営業の立ち上がりが遅く、初受注まで平均8カ月かかっている〕
- 顧客の規模と予算感: 〔例: 従業員100名の製造業。年間の教育予算はおよそ300万円〕
- 本命プラン(竹)に入れたい内容と想定価格: 〔例: 月2回の集合研修とロープレ添削で月30万円〕
# 出力形式
次の5列のMarkdown表で、3プランを1枚にまとめること。
1. プラン名(松竹梅ではなく、顧客にそのまま見せられる名称にする)
2. 内容(含まれるサービス・機能)
3. 価格(本命プランを基準にした設定と、その根拠を一言添える)
4. 向いている顧客(どんな状態の会社がそのプランを選ぶべきか)
5. 本命プランとの差分(機能の増減ではなく、得られる成果の差で書く)
# 制約
- 最下位プランは、それ単体でも課題の一部が確実に解決する誠実な構成にすること
- 最上位プランは、本命の単純な水増しではなく、顧客が将来像として憧れる理想形にすること
- 表の下に、こちらが推奨すべきプランとその理由を3行以内で書くこと
2本目は、出来上がった3案を商談で提示するためのトークスクリプトと想定問答を作るプロンプトだ。価格差を突かれてから考えるのでは遅い。切り返しは事前に仕込んでおく。
上で設計した3プランを、顧客との商談で提示する場面を想定してほしい。
# 前提条件
- 商談相手: 〔例: 営業部長。現場の決裁権を持つが、金額次第で役員稟議になる〕
- こちらの推奨プラン: 〔例: 真ん中の標準プラン〕
- 商談の狙い: 〔例: 次回までに標準プランで社内稟議を上げてもらう〕
# 出力してほしいもの
1. 3プランを提示するトークスクリプト
- 上位プランから順に説明し、最後に推奨プランとその理由を明言する流れにすること
- そのまま口に出せる話し言葉で書くこと
2. 想定質問と切り返し。少なくとも次の3つには必ず答えること
- なぜこの価格差になるのか
- 一番安いプランで十分ではないか
- 今は安いプランで始めて、後から上げることはできるのか
3. どの切り返しも、値引きに逃げず、プラン間で得られる成果の差で答えること
出力はあくまでたたき台だ。特に価格は、自社の原価と市場の相場観で必ず補正する。AIが代わってくれるのは構造の設計までであり、値決めの最終責任は営業の側にある。
やってはいけない設計は何か?
3プランは強力な型だが、設計を誤ると受注どころか信頼ごと失う。現場でよく見る失敗は4つある。
| やりがちな失敗 | 何が起きるか | 回避策 |
|---|---|---|
| 梅を露骨な当て馬にする | 中身のない最安案は「選ばせる気がない」と見抜かれ、提案全体の誠実さが疑われる | 梅単体でも課題の一部が確実に解決する構成にする |
| 松を値引きの原資にする | 上位案からの値引きを始めると、全プランの定価が信用されなくなる | 価格差はプランの中身で説明し、値引き要求には交渉の準備で応じる |
| プランを4つ以上に増やす | 比較の組み合わせが増え、顧客は選びきれずに保留する | 3つに絞り、細かな違いはオプションとして竹に添える |
| 課題と無関係な差分を作る | 顧客に関係ない機能差は、価格を吊り上げる口実に見える | 差分はすべて顧客の課題への効き方で設計する |
特に危険なのが2つ目だ。松を値引きの見せ球にした瞬間、その商談は取れても、顧客は二度と定価で買わなくなる。値引きを求められたときの正しい応じ方は、別記事値引き要求への切り返しをAIで準備する方法にまとめてある。3プランの設計と価格交渉の備えは、両輪で受注単価を守る武器になる。
3つ目の増やしすぎは、親切心から起きるだけに厄介だ。選択肢は多いほど喜ばれるように思えるが、比較すべき組み合わせが増えるほど人は決めきれなくなり、結局「一度持ち帰ります」に戻ってしまう。迷いを減らすために3つへ絞るのだという目的を見失わないこと。
4つ目も根は深い。顧客の課題に効かない差分でプランを分けると、どれだけ見せ方を磨いても「高い方を売りたいだけ」と受け取られる。差分の一つひとつが顧客の成果につながっているか、設計の最後に必ず点検してほしい。
Next Action:今日やる3つ
- 進行中の案件から、1案提案のまま止まっているものを1件選ぶ。
- 1本目のプロンプトに商材・顧客の課題・本命の内容を差し込み、3プラン表のたたき台を作る。
- 価格と差分を自社の実情で補正し、次の商談は松→竹→梅の順で提示すると決めて資料を組み替える。
提案とは、商品の説明ではなく選択肢の設計だ。やるかやらないかを問う提案を今日で卒業し、顧客には「どれにするか」を考えてもらおう。


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