夜中までかけて仕上げた15ページの提案書を送った。担当者からは「ありがとうございます、社内で共有します」と返事が来た。それから2週間、音沙汰がない。後で聞けば、決裁会議で配られたのは競合が出した資料で、そこには仕組みを1枚にまとめた図が入っていたという。文章の質で負けたのではない。読まれる前に負けていた。
結論から言う。図解が下手なのはセンスの問題ではない。何を図にするかを決めていないだけだ。線の引き方や色使いに悩む前に、要素を洗い出し、関係を整理し、並べ方を決める工程が抜けている。そしてこの設計作業は、AIが最も得意とする領域である。AIに絵を描かせる必要はない。ここでAIに出させるのは図の設計図であり、作図するのは人間という分担にすれば、作図はパワーポイントで図形を並べる10分の単純作業に変わる。
この記事では、営業資料で使う図は4種類で足りるという整理から、AIに設計図を出させる5つのステップ、そのままコピペできるプロンプト2本、そして作図で外してはいけない作法までを示す。デザインスキルは一切前提にしない。読み終えたら、今抱えている提案書の1ページを図に変えられる。
なぜ図は文章より速く伝わるのか?
図が速いのは、読む順番を強制しないからである。文章は先頭から順に読まないと意味が立ち上がらない。図は全体を一目で見せてから、細部に視線を落とさせることができる。この差が、忙しい決裁者の前では決定的に効く。
理由は3つある。
第一に、そもそも決裁者は資料の全文を読まないという現実がある。読むのは冒頭数行、図、そして数字だけだ。しかも稟議に回るとき、その資料を説明するのはあなたではない。目の前の担当者が、あなたの代わりに社内で説明する。そのとき文字がびっしり詰まった15ページは武器にならない。担当者が上司に向かって指をさしながら話せる図が1枚あるかどうかで、社内説明の成否が変わる。図は営業の代弁ツールである。
第二に、図は関係性と全体像を同時に示せる。文章で構造を伝えようとすると「Aで受けた情報がBに渡り、BはCを経由してDに反映される」と書くしかない。読み手は頭の中でこの文をいったん図に組み直す作業を強いられる。その組み直しのコストを、書き手が先に払ってしまうのが図解だ。人は言葉と視覚イメージを別の経路で処理するという二重符号化の考え方が知られているが、実務的な意味はもっと単純である。図と口頭説明がセットになると、相手は同じ情報を2回受け取れる。
第三に、図は口頭説明の足場になる。商談中に指をさす対象があると、相手の視線と自分の話が同じ場所に集まる。画面共有で進めるオンライン商談では、この効果がさらに大きい。カーソルを動かしながら「今ここの話をしています」と示せる資料は、相手を迷子にさせない。逆に文字だけのスライドを共有すると、相手は勝手に先を読み始め、話が噛み合わなくなる。
つまり図は装飾ではない。理解を相手の頭の外に出しておく装置だ。ここを押さえると、次の問いは「どんな図を作るか」ではなく「どの型を選ぶか」に変わる。
営業資料で使う図は4種類で足りる
営業資料に必要な図は、実質4種類しかない。凝ったインフォグラフィックや立体的なイラストは不要だ。まずはこの4つを使い回せる状態を作る。
| # | 図の種類 | 使う場面 | 伝わること | 基本の形 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 比較図(現状 vs 導入後) | 課題提起、投資判断を促す場面 | 変化の大きさ。放置した場合の損 | 左右に2ブロック。中央に矢印 |
| 2 | フロー図(業務の流れ) | 業務改善提案、運用イメージの説明 | どこが詰まっているか。手順の順序 | 左から右へ枠を並べ、矢印でつなぐ |
| 3 | 構造図(システム・体制の関係) | 仕組みの説明、役割分担の合意 | 誰が何を担うか。何と何がつながるか | 中心を置き、周囲に関係先を配置 |
| 4 | マトリクス図(位置づけ・優先順位) | 競合比較、着手順の合意形成 | 相対的な立ち位置。どれを先にやるか | 縦横2軸で4象限に振り分ける |
この4つのうちどれを選ぶかは、センスではなく伝えたい結論の文型で決まると考えてよい。自分が言いたいことを1文にしたとき、その文がどの型に対応するかを見ればよい。
| 言いたいことの文型 | 選ぶ図 |
|---|---|
| 今のままだと損をする/これだけ変わる | 比較図 |
| ここで手が止まっている/この順で進む | フロー図 |
| 誰が何をするのか/何がどこにつながるか | 構造図 |
| どこに位置するのか/どれを先にやるべきか | マトリクス図 |
迷ったら比較図を選ぶ。営業資料で最も外れが少ないのは、現状と導入後を並べた1枚だからだ。人は絶対的な良さより、変化の差分に反応する。逆に最も失敗が多いのは構造図である。自社のシステムに詳しい人間が作ると、要素を足しすぎて配線図のようになり、相手は最初の3秒で読むのをやめる。
AIに図解させる手順はどうするか?
手順は5ステップだ。重要なのは、AIに任せる工程と人がやる工程をはっきり分けることである。境界を曖昧にすると、それらしいだけで使えない出力が返ってくる。
| ステップ | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 1 | 伝えたい結論を1文にする | 人 |
| 2 | 図の種類を選ばせる(候補を2案出させて人が決める) | AI → 人が判断 |
| 3 | 要素と関係(枠・矢印・グループ)を出させる | AI |
| 4 | 枠の中に入れる短い文言を出させる | AI |
| 5 | パワーポイントなどで作図する | 人 |
ステップ1:伝えたい結論を1文にする
図が決まらない最大の原因は、結論が決まっていないことだ。「このページを見た相手に、何を思ってほしいのか」を1文で書けないなら、どんなツールを使っても図は作れない。逆にこの1文が書ければ、図の8割は決まる。良い例は「今の手作業のままでは、受注が増えるほど締め処理が破綻する」のように、主張が入っている1文だ。悪い例は「当社サービスの全体像」のような、内容のない見出しである。
なお、提案書そのものの骨組みが固まっていない状態で図に手をつけるのは順序が逆だ。全体の流れから作り直す必要があるなら、提案書の構成をAIに設計させる手順を先に済ませたほうが早い。
ステップ2:図の種類をAIに選ばせる
結論の1文と、元になる文章をAIに渡し、どの型が適しているかを2案出させる。ここで大事なのは、それぞれの案で何を捨てることになるかを一緒に書かせることだ。図解とは情報を削る作業である。捨てる情報が明示されないまま図を選ぶと、後から未練が出て要素を足し始め、結局伝わらない図になる。
ステップ3:要素と関係を出させる
採用した型について、枠の一覧、矢印の一覧、囲み(グループ)の一覧を表で出させる。矢印は「どの枠からどの枠へ」と「その矢印が何を表すのか」をセットで出させる。ここまでテキストで確定すれば、作図はもう考える作業ではなくなる。
ステップ4:枠に入れる文言を出させる
図が読みにくくなる原因の大半は、枠の中の文字が長すぎることだ。AIには文字数の上限を指定して書かせる。目安は枠の中が全角13文字以内、矢印のラベルが8文字以内である。加えて、図の上に置く見出しを25文字以内の言い切りで作らせる。この見出しがそのままスライドの主張になる。
ステップ5:人が作図する
ここでようやくパワーポイントを開く。使うのは四角形、矢印、テキストボックスの3つだけでよい。設計図があれば、四角を並べて文字を貼り、位置を揃えるだけの作業になる。慣れれば10分ほどで終わる。作図を助けるツールは各種あるが、どれを使っても設計が空っぽなら図は伝わらない。逆に設計が固まっていれば、手持ちのソフトで十分に足りる。作図そのものに苦手意識があるなら、デザインスキルなしで営業資料を仕上げる方法も併せて読むといい。
最大のコツは、文章をそのまま渡さないこと
この手順で最も差が出るのはステップ2から3にかけての指示の出し方だ。提案書の文章をコピペして「図にして」と頼むと、返ってくるのはただの要約である。箇条書きに整形されただけで、図の設計にはならない。
必要なのは、文章に加えて目的と相手を伝えることだ。誰に見せるのか(決裁者か、現場の担当者か)、その人はこの分野に詳しいのか、何分で見るのか、見た後に何を思ってほしいのか。この4点を添えるだけで、出力は要約から設計に変わる。同じ提案内容でも、現場向けならフロー図が有効で、役員向けなら比較図に寄せるべきだからだ。相手が変われば図も変わる。この判断材料を渡さない限り、AIは無難な要約しか返せない。
なお、図解は資料作成という工程全体の一部にすぎない。提案書と見積書の作成そのものを圧縮したいなら、見積書と提案書の作成を自動化する手順で扱っている型の整備から着手するほうが効果が大きい。
図の設計図をAIに出させるプロンプトはどう書くか?
ここからは実践だ。1本目で設計図を作り、2本目でその設計を批評させる。この2段構えにするのが要点である。1回で出た設計をそのまま作図すると、要素が多すぎる図になりがちだからだ。
まずは設計図を出させるプロンプト。角括弧の部分を自分の案件情報に差し替えて使う。
あなたはB2B営業資料の図解設計者だ。以下の文章を、営業資料に載せる図1枚の「設計図」に変換してほしい。
絵やイラストは生成しなくてよい。テキストで設計だけを出すこと。作図は人間が行う。
# 前提
- 見せる相手: 〔例: 従業員300名の製造業。情報システム部の部長と、同席する経理部長〕
- 相手の知識レベル: 〔例: 業務は詳しいが、システム用語には詳しくない〕
- 見てもらえる時間: 〔例: 商談で投影して口頭説明を添える。相手が自力で見るのは10秒程度〕
- この図で相手に思ってほしいこと: 〔例: 今の手作業のままでは、受注が増えるほど月末の締め処理が破綻する〕
- スライドの形: 〔例: 横向き1枚。16対9〕
# 元の文章
〔ここに提案書の該当箇所をそのまま貼る〕
# 出力してほしいもの
1. 図の種類の提案を2案。比較図・フロー図・構造図・マトリクス図のいずれかから選ぶこと。
各案について「この図で伝えられること」と「捨てることになる情報」を明記する。
2. 推奨する1案について、次の3つを表で出す。
(a) 枠の一覧:枠の名前/枠の中に入れる文言(全角13文字以内)/配置(上下左右のどこか)
(b) 矢印の一覧:起点の枠 → 終点の枠/その矢印が表す意味/添えるラベル(8文字以内)
(c) 囲みの一覧:どの枠をまとめるか/囲みに付ける見出し
3. 図の上に置く見出しを1つ。このスライドの結論を25文字以内の言い切りで。
4. 図の下に置く補足を一文。
5. 図から削った情報のうち、口頭で必ず補うべき点。
# 制約
- 枠は7つ以内。それを超えるなら統合するか、削る判断の理由を書くこと。
- 横文字と専門用語は使わない。営業以外の人が読んでも意味が通る言葉にする。
- 数字を入れられる枠があれば、どの枠に何の数字を入れるべきか指示すること。
- 断定できない数値をこちらで補わないこと。数字は〔要確認〕と書いて空欄にする。
2本目は、できあがった設計を厳しく見直させるプロンプトだ。自分で作った図を貼って使ってもよい。自作の図に対して使うと、要素の多さに自分で気づけないという盲点をつぶせる。
先に設計した図を、相手の立場で厳しく批評してほしい。褒める必要はない。改善点だけを出すこと。
# 図の設計(現状)
〔プロンプト1の出力をそのまま貼る。または自作の図の枠と矢印を箇条書きで書く〕
# 見せる相手と目的
- 相手: 〔例: 決裁者である役員。この分野の知識はない。資料を見るのは5秒〕
- 思ってほしいこと: 〔例: 導入しないほうがリスクが大きい〕
# 次の観点ごとに「問題あり」「問題なし」を判定し、問題ありには具体的な修正案を出すこと
1. 5秒見ただけで、伝えたい結論が伝わるか。
2. 要素が多すぎないか。統合できる枠、削れる枠はどれか。
3. 1枚に2つ以上のメッセージが混ざっていないか。混ざっているなら、どこで2枚に割るべきか。
4. 矢印の意味が一意に読めるか。時間の流れ・因果関係・データの流れが混在していないか。
5. 枠の中の文言に、相手が知らない言葉や社内用語が混ざっていないか。
6. この図を見た相手が最初に投げてきそうな質問は何か。その質問が出るなら、図に何が足りないのか。
# 最後に
修正後の設計図を、元と同じ形式で作り直して出すこと。
どうしても削れない情報がある場合は、図から外して口頭で補う項目として列挙すること。
出力はあくまでたたき台である。特に観点6の「最初に出そうな質問」は目を通す価値が高い。その質問が実際の商談で出るなら、図が説明しきれていない証拠だ。指摘を受けて枠を1つ削るたびに、図は伝わるようになる。
作図で気をつけることは何か?
設計が良くても、作図で崩れることはある。守るべきは5つだけだ。デザインの知識ではなく、伝達の原則である。
| ルール | 理由 | 破ると起きること |
|---|---|---|
| 要素は7つ以内 | 人が一度に把握できる情報量には限界がある | 図が配線図になり、読むのをやめられる |
| 1枚1メッセージ | 2つ主張すると、どちらも記憶に残らない | 「結局何が言いたいのか」と聞かれる |
| 色は3色まで | 色数が増えると、どこが重要か分からなくなる | 全部が目立ち、強調が機能しなくなる |
| 矢印の向きを揃える | 向きの混在は、意味の混在として読まれる | 流れが追えず、相手が自力で読み解けない |
| 凝った装飾より整列 | 揃っていない図は、内容以前に信頼を落とす | 素人っぽく見え、提案の説得力まで下がる |
補足しておく。要素7つという上限は、心理学者ジョージ・ミラーが示した短期記憶の限界に由来する経験則だ。厳密な閾値として扱う必要はないが、営業資料の現場感覚としてはよく合う。枠が8つを超えたあたりから、相手の目線が止まらなくなる。
色については、地の色・文字の色・強調の色の3つに固定するのが最も安全である。強調色は自社のロゴから1色借りればよい。現状と導入後を比べる比較図なら、現状側を灰色、導入後側を強調色にするだけで、見た瞬間にどちらが良いかが伝わる。
矢印の向きは、左から右か、上から下のどちらかに統一する。業務フローの矢印と、データの流れの矢印と、因果関係の矢印を1枚に混ぜてはいけない。どうしても複数種類が必要なら、実線と点線で描き分け、凡例を1行添える。それでも読みにくいなら、図を2枚に割るべき合図だ。
最後に、影・グラデーション・立体・イラストはすべて不要である。営業資料の図で見やすさを決めるのは、枠のサイズが揃っているか、余白が均等か、文字の大きさが統一されているか、この3点だけだ。つまり装飾を足す時間を要素を削る時間に振り替えたほうが伝わるということである。
Next Action:今日やる3つ
読み終えた今日のうちに、ここまで進めてほしい。
- 手元の提案書から、文字だけで説明している1ページを選び、そのページで相手に思ってほしいことを1文で書き出す。書けなければ、そこは図にする前に主張を決める段階だと判断する。
- 上のプロンプト1に、その1文と相手の情報、元の文章を差し込んで設計図を出させる。返ってきた2案のうち、捨てる情報が許容できるほうを選ぶ。
- プロンプト2で設計を批評させ、枠を1つ以上削ってから、パワーポイントで四角と矢印だけを使って作図する。かける時間は15分を上限に決めておく。
図解は才能ではなく手順である。何を伝えるかを1文で決め、何を捨てるかをAIと一緒に決める。その2つを済ませれば、あとは並べるだけだ。次の提案書の1ページから、試してほしい。


コメント